別雷神社。
静岡市葵区七間町に鎮座。
式内社 大歳御祖神社の論社。
境内
鳥居
社号標
手水舎
狛犬
社殿
拝殿
扁額
本殿
由緒
伝承によれば応神天皇の御宇4年(273?)4月、勅により創建。
鎮座地付近は大宝3年(703)創市とされる安倍の市と称する物資交流の中心地として栄えたとされ、その守護神として奉斎されたものといわれます(上記の創建時期からすると矛盾しますが)。
安倍市(阿倍市)の所在については賤機山の南端にあったことだけは確かとされるものの諸説あり、旧版『静岡県史』は上石町・梅屋町・人宿町・七間町、両替町の一部にわたる=当社周辺、新版『静岡市史』は静岡浅間神社を構成するうちの一社大歳御祖神社の南に開けた参道の馬場町付近としています。
安倍の市を詠んだ歌として、万葉集巻三に、春日蔵首老の「焼津辺 吾去鹿歯 駿河奈流 阿倍乃市道尓 相之児等羽裳(焼津辺にわが行きしかば駿河なる阿倍の市道に逢ひし児らはも)」が載っています。
延喜式神名帳にみえる「駿河国安倍郡 大歳御祖神社」に当社をあてる説があります。
『駿河国式社備考』は「近世国府加茂稲荷社七間町下石町境にあり当山派修験雷電寺扣、此社を大歳御祖神社なりと云異説あれど、当社加茂社は元有度郡加茂村に鎮座ありしが、中古此地に移し、今に彼村は氏子なりと云へり、稲荷社は後に配祭すと云、元此社は今宿之内雷宮と、永禄年中武田家文書ありて、奈吾屋鎰取大井の家に持てるを、此寺へ譲れるなり、諸郡神階帳に、従五位上奈吾屋火雷地祇とある社なるべし、加茂社は既に云如く、元有度郡の社にて、安倍郡式社に由なし」と、この説を退けています。
有渡郡加茂村は現在の清水区宮加三辺りだそうですが、そちらに加茂神社があります(位置)。
『駿河記』は「又賀茂明神は、昔し有度郡加茂村にあり。其旧地には小祠を存し、其村の人今も府の雷の社を以て氏神と称して」とあるので、この小祠が加茂神社に当たるのかもしれません。
『駿河記』は大歳御祖神社について、「其旧地両説あり。一には賎機山、奈古屋の森に座御神と云、一には市中に座賀茂神社と云、終に定論あることなし」とします。
式内 大歳御祖神社のもう一つの論社である大歳御祖神社(静岡浅間神社を構成するうちの一社)は、賤機山上に鎮座した奈吾屋社と、安倍市の守護神大歳御祖神社が一つになったものとも言われます。
その説を考慮すると『駿河記』の文章は、奈吾屋社と一つになる以前の大歳御祖神社の旧地を賎機山、奈古屋の森(=現在地と大きく違わない、安倍市を大歳御祖神社の南に開けた参道の馬場町付近とする説か)、あるいは賀茂神社=当社の地とする二説があるという意味でしょうか。
後者の説の場合、当地はあくまで旧地であって、賀茂神社は大歳御祖神社の跡地に祀られた別の神社(=式内論社とはならない)ということになります。『駿河国式社備考』がいうように、有渡郡加茂村から跡地に遷ってきた神社なのかもしれません。
また、日本三代実録 元慶2年(878)4月14日己卯条に「駿河国正六位上…火雷神…従五位下」とみえる火雷神を当社とする説もあります。
(ただし『駿河記』は「此位階を授けられしは此所の雷神にはあるべからず。若くは富士郡村山ノ神にやあらむ」としています。富士郡村山ノ神とは村山浅間神社でしょうか)
宝亀3年(772)4月28日、官幣を賜い疫病除け雷除けの勅書を堤中納言を以て当社に賜ったと『静岡県神社志』『平成祭データ』にありますが国史にはみえません(『駿河記』によれば雷電寺社記が類聚国史を引いて記した内容だそうですが)。
また同二書には永禄年中(1558~70)に武田信玄が社殿を再興したともあります。
明治8年村社列格、同17年郷社に昇格。
祭神は別雷神、玉依比売命。この二柱が元々の賀茂神社(加茂社)の祭神と思われます。
保食命、大山咋命、火之迦具突智命、大穴貴命、少彦名命、猿田彦命を配祀。彰徳神を合祀。
保食命は『駿河国式社備考』にみえる配祭された稲荷社祭神と思われ、『静岡県神社志』では相殿神とされています。
大山咋命は『静岡県神社志』に境内社松尾神社の祭神として挙げられているので、後本社に合祀されたのではないでしょうか。
火之迦具突智命、大穴貴命、少彦名命については同書の時点で既に合祀されていた秋葉神社の祭神のようです。
猿田彦命、彰徳神については配祀・合祀の経緯不明。
御朱印
御朱印はありました。
過去形なのは御朱印なしとの口コミがネットで見られるため。
ググっていただくとわかると思いますが、こちらの御朱印は社名の印のみで墨書きは(日付含め)ありません。私が参拝した2016年時点で既にそのスタイルでした。
口コミが墨書きがないことを指して御朱印なしと言っているのか、あるいは押印もやめられてしまったのかは不明。墨書きがないとヤダヤダな人がゴネた結果やめてしまった、とかでなければいいんですが。
アクセス
静岡駅北口から徒歩10分程度です。
車の場合、駐車場がないので付近のコインパーキングに停める必要があります。この辺りはコインパーキングが多いので、特に困ることはないと思われます。小梳神社や住吉神社も近いので、あわせて参りやすい場所を選ぶといいかも。
神社概要
社名 | 別雷神社(わけいかづちじんじゃ) |
---|---|
通称 | いかづっつぁん |
旧称 | 賀茂神社(?) |
住所 | 静岡県静岡市葵区七間町14-6 |
祭神 | 別雷神 玉依比売命 |
合祀 | 保食命 大山咋命 火之迦具突智命 大穴貴命 少彦名命 猿田彦命 |
配祀 | 彰徳神 |
社格等 | 式内社 駿河国安倍郡 大歳御祖神社 日本三代実録 元慶二年四月十四日己卯 火雷神 従五位下 旧郷社 |
札所等 | – |
御朱印 | あり(現在はなし?) |
御朱印帳 | – |
駐車場 | なし |
公式Webサイト | – |
備考 | 往古は有渡郡加茂村(現・清水区宮加三)に鎮座? |
参考文献
- 「別雷神社」, 神社本庁教学研究所研究室編『平成「祭」データ(CD-ROM)』全国神社祭祀祭礼総合調査本庁委員会, 1995
- 教部省編『特選神名牒』磯部甲陽堂, 1925(国会図書館デジタルコレクション 185コマ)
- 桑原藤泰『駿河記』, 1932, p.67-71(国会図書館デジタルコレクション 127-129コマ)
- 式内社研究会編『式内社調査報告 第九巻 東海道4』皇學館大学出版部, 1988
- 静岡県郷土研究協会『静岡県神社志』静岡県郷土研究協会, 1941
- 中村高平『駿河志料 第3編』静岡郷土研究会, 1930, p.125(国会図書館デジタルコレクション 129コマ)
- 伴信友『神名帳考証』(『伴信友全集 第一』国書刊行会, 1907-1909(国会図書館デジタルコレクション 124コマ)
- 明治神社誌料編纂所編『府県郷社明治神社誌料 上巻』明治神社誌料編纂所, 1912(国会図書館デジタルコレクション 886-887コマ)